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高松家庭裁判所 平成元年(少)681号 決定

少年 S・Y(昭50.11.6生)

主文

1  平成元年少第681号、第700号ぐ犯保護事件及び平成2年少第13号傷害保護事件について

少年を初等少年院に送致する。

2  平成元年少第764号強制的措置許可申請事件について少年に対し強制的措置をとることを許可しない。

本件を香川県児童相談所長に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第1中学校1年生の中ころから学校にほとんど登校せず、不良交遊の中で無断外泊、家出を繰り返したため、昭和64年1月1日、教護院である香川県立斯道学園に入所したが、同学園でも落ち着くことができず、規律違反や職員に対する反抗等の問題行動を起こすとともに無断外出を繰り返し、平成元年5月20日に無断帰宅した後は帰園を拒み、その後もほとんど学校に登校せず、不良仲間や暴力団関係者宅を転々として無断外泊、家出を続け、その間いわゆるテレフォンクラブを通じて売春まがいの行為をするなどしていたものであり、もって保護者の正当な監督に服せず、正当な理由がなく家庭に寄りつかない状態であり、また、犯罪性のある人と交際し、自己の徳性を害する行為をしているものであり、このまま放置されるならば、その性格、環境に照らして、将来風俗犯罪等の罪を犯すおそれがあり

第2A子と共媒のうえ、以前遊び仲間であった同級生のB子(当14歳)及びC子(当13歳)が少年らの悪口を言っているとして、両名に対し暴行を加えることを企て、平成元年12月4日午後2時ころから同日午後3時ころまでの間、高松市○○町××番地○○方南側地下道内において、少年がC子に対し、その髪をつかみ腹部、足等を10回位足蹴りし、A子がB子に対し、その顔面を手家で1回殴打し、その後更に両名をその場に土下座させたうえ、こもごも両名に対し、その頭部、顔面、腹部等を手拳で殴打し、あるいは足蹴りするなどの暴行を加え、よって、B子に対し加療約14日間を要する頭部外傷II型、頭蓋内出血の疑い、左肋骨骨折の疑い、左鼓膜外傷等の傷害を、また、C子に対し加療約10日間を要する頭部外傷I型、頭蓋内出血の疑い、右手及び左足関節部打撲の傷害をそれぞれ負わせ

たものである。

なお、前記非行事実第1のぐ犯事実の個数について付言するに、本件においては、香川県児童相談所長から当裁判所に対し、平成元年8月2日付け及び同月18日付けの2回にわたってぐ犯の事件送致がなされているが、上記各事件の対象となるぐ犯事実は、前記非行事実第1に認めたとおり、少年が本件において1回目の観護措置をとられるまでの間の一連の無断外泊及び家出、暴力団関係者らとの交遊、売春まがいの行為を行っていたこと等の事実であり、全体的に評価すべきものと考えられるので、当裁判所としては、ぐ犯事実を1個と認めたものである。

(法令の適用)

第1の事実につき 少年法3条1項3号本文、同号のイないしニ

第2の事実につき 刑法60条、204条

(強制的措置許可申請の要旨)

少年については、前記非行事実第1のぐ犯事実があるところ、同事実に照らすと、少年を開放的な施設において教護することは極めて困難であるから、同人に対し、180日を限度として、強制的措置をとることの許可を求める。

(処遇の理由及び強制的措置許可申請に対する判断)

少年は、その小学校4年生時に両親が離婚し、母親に引き取られたが、母親が情夫を殺害する事件を起こして服役したことから、小学校卒業時ころ再び父親に引き取られるという不安定な家庭環境の中で生育した。このため、少年は、しつけ不足で社会性の発達が遅れ、家庭で満たされない情緒の安定、愛情欲求を不良交遊によって代償するようになり、中学校1年生の中ころから非行化し、前記非行事実第1に認めた経過をたどって本件ぐ犯事件の送致及び強制的措置許可申請がなされるに至ったものである。

ところで、上記事件の第1回審判期日において、少年は、今後中学校に真面目に通学し、無断外消、家出をしないこと等を誓約し、また、少年の父親も不十分ながら少年を引き取って指導監督したい意向を示したため、当裁判所は、少年を在宅試験観察に付してその更生努力に期待したところであるが、少年は、同決定後約1か月間何とか学校に通学したものの、その後は持病の気管支喘息もあってほとんど学校に登校せず、同決定後約3か月で本件傷害の非行に至り、平成2年1月末からは再び家出状態に陥った。もとより、上記本件傷害の非行は、些細な動機から無抵抗の被害者2名に対し、約1時間にわたり失神させるほどの執ような暴行を加え傷害を負わせたものであり、極めて悪質な事案といわざるを得ない。このように、上記試験観察決定後も少年の学校不適応は一層顕著となり、その非行性も更に進んでいるものと認められる。

更に、少年の保護状況について見るに、少年の親権者である母親は、現在前記殺人事件により服役中であり、今後相当期間にわたり出所できる見込みがなく、同人自身、むしろ少年を少年院において教育してもらうことを望んでいる。また、父親は、少年に対して愛情をもっているものの、内妻に対する気兼ねもあって少年とは日頃から疎遠であり、再び同人を引き取って指導監督することについては消極的である。

そこで、以上の諸事情に、調査、鑑別の結果明らかとなった少年の性格、資質等も総合考慮すると、今後在宅保護によって少年の更生を期待することは極めて困難というべきであるところ、前記のとおり、現段階においては少年の非行性は相当進んでいること、また、少年は、前記試験観察継続中に少年院における処遇が可能な満14歳に達したこと等も考慮のうえ、この際、少年に対し強制的措置をとることは許可せず、むしろ同人を初等少年院に収容し、同人に対し、安定した環境の中で義務教育を施し、併せて自己洞察を深めさせ、自立性を養わせるための矯正教育を受けさせるのが相当と思料する。

よって、少年院送致の点につき少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 高橋善久)

〔参考1〕児童送致書〈省略〉

〔参考2〕児童送致書〈省略〉

〔参考3〕強制的措置許可申請書

香川県児童相談所長からの児童福祉法27条の2に基づく強制的措置許可申請書記載の審判に付すべき事由及び処遇意見

1 審判に付すべき事由

児童は、平成元年8月2日付第592号及び同年8月18日付第639号をもって、児童福祉法第27条第1項第4号により貴所にぐ犯事件として送致しているものである。

当児童は、保護者の正当な監督に服さない性癖を有し、正当な理由なく家庭に寄りつかず、不道徳な人と交際していたため、当所は本年1月1日から教護院に入所させていた。しかし問題は一向に改善されず、5月20日無断帰宅してからは帰院を拒み、保護者もそれに同調していたため、8月2日付で教護院措置は解除とした。

帰宅後も在籍中学校へは登校せず、7月中旬に家出し、ぐ犯少年○○と共にぐ犯少年○○子の家に泊り込み、1週間寝起きした後再び3人で家を出て、暴力団○○会系○○組に出入りしている○○(無職)の家に寝泊りしながら、テレホンクラブに電話し、売春まがいの行為をくり返していたものである。

当児童の非行歴や性癖に照らして、将来触法行為をくり返すおそれがあり、また開放的施設での教護はいたって困難であることから、強制的措置のとれる教護院(国立きぬ川学院)への入所が必要と判断されるので、強制的措置の許可を申請する。

2 その他参考となる事項

平成元年8月2日及び8月18日送付の児童送致書を参照されたい。

3 処遇意見

強制的措置の期間は、通算180日を限度とするのが適当である。

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